NFTと興味価格

NFTが最近、話題になっています。意味を調べると「非代替性トークン」とのこと。なんか、よく分かりませんが、「所有権の公的なデジタル証明書」、つまりパソコン上のデジタルデータで「これが本物」ということを証明するものらしいです。しかし、100%コピーができてしまうデジタルデータに、本物を証明する必要が意味あるのでしょうか?絵画なんかは、鑑定士が鑑定して証明します。しかし、100%コピーできてしまえれば、そもそも証明できないし証明する意味がないのでは?と思ってしまいますが、実は証明する意味はあるのです。モノの価値には「時間価格」と「興味価格」があります。まず、その違いから分かりやすく説明したいと思います。

パソコン上の写真はデジタルデータ、つまり「0」と「1」がたくさん集まった膨大な量のデータで出来上がっています。音楽のデータも同じですね。ということは、スキルを持つエンジニアが、その膨大な量のデータを完全にコピーしてしまえば全く同じモノができてしまうことになります。そのような中で、「これは本物だよ!」ということがどうして言えるでしょうか。また、そもそも「本物だよ」ということに意味はあるのでしょうか。

例えば、有名なゴッホの「ひまわり」の絵画でしたら、本物とコピーされた偽物では識別するのに難易度が高くても、確実に何かが違います。ですから、本当にゴッホが描いたその何かが違う本物が欲しくて、それに高値がつくのです。このことは、ブランド品のバッグでも本物と偽物があり、やはり本物が欲しいのと同じことと思います。

でもよくよく考えて見ると、これって本当でしょうか?確かにブランド品のバックは、やはり本物の方が品質は良いと思います。パッと見では判別できなくても、使っているうちに明らかに本物と偽物では品質が違うことが分かってきます。だから、やっぱり本物が欲しいのです。

でも、ゴッホの「ひまわり」はどうでしょうか。本物と偽物に違いはりますか?若干描く線の感じが本物と違う偽物があったとしても、その違いがあるだけで本物にメリットはあるでしょうか。偽物と知らなくても何も問題は起こりません。では、何故本物はとてつもなく高価なのでしょうか。私たちはゴッホの描いた「ひまわり」に、何の価値を見出しているのでしょうか?

バーチャル渋谷でも同じことがいえます。バーチャル渋谷はWeb上で見られる3D映像の渋谷の街です。本物の渋谷の街のように画面に映し出され、自分のアバターを歩かせることができるようです。そして、バーチャル渋谷の中の土地が売買されているのです。バーチャル渋谷の土地は、数十万円の小さなサーバーの中の「0」と「1」のデータの集まりに過ぎません。それが、サーバーの機器の何百倍の値段で売買されるなんて、なんか不思議です。

でも、実際の土地だって実は同じと思います。渋谷がまだ賑わいのある街ではなく、ただの草原だった大昔の時代を想定してみましょう。きっと渋谷の土地になんの価値もありません。もし、温泉が出るのであれば、それは別の話になります。では、なぜ実際の渋谷の土地が高値で売買されているのでしょうか。ゴッホの「ひまわり」とあまり変わらない気もします。

話はちょっと変わって、「モノ(サービス)の価格は何で決まりますか?」という質問に対して、「それは需要と供給のバランスで決まります」と学校の社会の時間だったかで習ったような気がします。でも、本当は違います。モノの価格はそのモノを作るのに費やした総時間で決まるのです。例えば、ボールペンの価格を考えると、ボールペンを組立てた時間です。でも、それだけではありません。ボールペンの外側のプラスチックの部品を作った時間もあります(それが部品の価格になる)。会社のロゴなどの印刷があれば印刷した時間も足されます。外側のプラスチックの部品はプラスチックの元になるお米のようなペレットからできています。そのペレットを作った時間もあります。それらのすべての時間を足して、その作業に関わったすべての人の時給を掛け合わせて最終的なボールペンの価格が決まります。実際には、会社の利益とか不良率、輸送費などもさらに足されていきます。ダイヤモンドが高価なのは、採掘するのに時間がかかるからです。(実際はそれ以外にも色・透明度などもありますが)この総時間から成る価格を「時間価格」と名付けるとしましょう。

モノの価格は、まずこの時間価格がベースとなります。そして、いろいろなモノが市場に出てくると、人気のあるモノや人気のないモノも出てきます。人気のあるモノは、売る側はより高値で売りたがるし、買う方も高くても買いたがるので価格は上昇していきます。人気のないモノは売れないので、価格を安くしてなんとか売ろうとします。これで価格が微調整され詳細に決まってくることを「需要と供給のバランスで決まる価格」ということになります。別の表現にすると欲しい人が多い/少ない、つまり人間の興味の集中度で価格が決まるので「興味価格」と名付けましょう。つまり、モノの価格は「時間価格」をベースにして「興味価格」で微調整をして決まってくるのです。そういった観点で考えると、バーチャル渋谷や実際に渋谷の土地の価格は、それらを作る時間を大幅に上回る価格で取り引きされているので、ほぼ全てが興味価格になると思います。

ゴッホの「ひまわり」の話に戻しましょう。確かに昔ゴッホがどのくらいの時間をかけてこの絵画を描いたかも価格を左右するかもしれません。しかし、億単位で売買されていることを考えると、この絵画の価格はほとんどが興味価格なのです。どのくらいの人が欲しいと思っているかです。「ひまわり」の絵画が素晴らしと思って欲しい、また投機の対象として欲しいなどがあると思いますが、どちらも「欲しい」には変わりません。

では、偽物の「ひまわり」は欲しいでしょうか。きっと、世界にいくつもある偽物は誰も欲しくないと思います。興味価格がないのです。よって、鑑定士に「本物です」と証明された「ひまわり」だけが、高価な価値を得られるのです。絵画の出来不出来なんて実際どうでも良いのです。大切なことは実際にゴッホが描いたという「本物の証明」があることです。

そこで、冒頭のパソコン上のデジタルアートの話に戻ります。デジタルデータを完璧にコピーして100%同じデジタルアートや写真、音楽のコピーができてしまいます。写真画像をWebページの挿絵にする用途などで購入する場合は「時間価格」の価値しかその写真にはないでしょう。しかし、有名フォトグラファーが撮った写真であれば、そこには「興味価格」が存在するので、本物の証明が必要になるのです。

有名フォトグラファーが撮った写真であっても、もちろんコピーで満足できればそれでも問題はありません。その写真の出来具合、つまり「時間価格」に価値を感じるのであればコピーでも価値はあるのです。複製の絵画を飾っている人も、実際にはとてもたくさんいます。

NFTは、パソコン上での興味価格を成立させるために生まれたシステムであると考えれば良いと思います。リアルで興味価格の比重が大きいモノには、絵画はもちろんのこと、切手、陶芸品、選手カード、アンティークなどがあり、これらが売買されるときには鑑定が行われる場合が多いです。

100%コピーが可能なデジタルデータが表示されるパソコン上でも、興味価格についてリアルと同じ環境を作る必要性から生まれたシステムがNFTと考えると分かりやすいと思います。しかし、100%が興味価格からなるモノは少なく、デジタルデータの100%コピーで満足する人は、リアルでコピーしたモノで満足する人より多いと思うので、デジタルデータのNFTは、リアルでの「本物の証明」よりは重宝されないと思います。

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